オートバイ少女

少女なんて出てきません。(ごめんなさい)
鈴木翁二の漫画のタイトルを拝借です。
暑い夏の日、陽炎に消えるオートバイのシルエットは、ハイパーでもスーパーでも何でもなくて、ただ遠いあの日の記憶なのです。
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DAY 1


不思議と緊張で張り裂けそうなほどにはならなかった。
前日のサラスクール見学のせいか、体も動く気がする。
オンタイム独特の静かなスタート時間は、一斉スタートのピリピリと殺気だった雰囲気に比べると、ずっと過ごしやすい。時間を見ながら、手順を踏んでいけばいい。何が起ころうと、慌てる必要もなく、自分のことだけを考えていればいい。
C2クラスはほぼ最後尾のスタート。ゆっくりと手を振ってコースに旅立ってゆく仲間達を見送りながら、この先に何が待っていようと、自分に出来ることをやるだけなのだと思うと、むしろ落ち着いた気持ちでさえいられた。
落ち着いていられたのは、このレースで失うものは何も無いという、テンションの低いまま、完全に開き直った気持ちだったからかもしれない。オンタイムで走破することさえ、全く考えていなかった。どれほど失敗しようと、無様であろうと、仕方がないとさえ思っていた。自分がこのレースの場にいること自体、間違っているんじゃないかという気持ちも拭えなかった。だから失敗しても、転んでも、諦めないでそこから前に進むことだけを考えようと思っていた。順位なんてどうこういえるレベルじゃないのは承知の上で、完走だけが目標だった。

名前を呼ばれて、静かに旗が振られてコースイン。心配していたエンジン始動は問題なし。大坂を越えてモトクロスコースを出るとすぐに森の中に入る。すでに170台ほどのマシンが走ったワダチを追いながら、ルートを走る。SUGOならではの沢や階段、小さく曲がるコーナーや落っことすような段差が続く。舗装路を経てテニスコート裏からまた森に。いよいよ本格的な山岳エリア。アップダウンが連続する。しばらくいくと数台が溜まっているヒルクライム。一分前にスタートした島ちゃん達がいる。ここで突っ込んでみるも、どのラインも誰かがはまっていて失敗。下に降りてやり直し。しかし、次も別のマシンに引っかかる。今回はこうして誰かがはまっていると、ことごとく弱気になって自分も失敗するというパターンを繰り返すことになる。本来なら埋まっているラインからすぐに、別のラインにアグレッシブにいかなければいけないのに、ヨワヨワ全開で、順番待ちすらするほど。

数え切れないほどのアップダウン、キャンバー、そして急な下り。下り嫌いにとってSUGOは辛い。立木をよけながらの長めの下りで、堪えきれずにフロントを流して激突。マシンはフェンダーとタイヤの間に木がすっぽりはまったまま横倒し。よく見るとフロントフェンダーの先が20cmほどポッキリ折れていた。情けない気持ちがこみ上げてくるものの「弱気になるな」と自分に言い聞かす。そして今朝すれ違いざまに「がんばれよ」と声をかけてくれたコスさんの顔が思い浮かぶ。こんなことじゃ完走どころじゃないと、KTMをずりずりと引きずり、何とか引き起こす。

しかしペースは全然上がらない。この先に何が待っているのか、そう思うと必要以上に慎重になってしまう。
エンデューロテストに入っても、それは全く変わらず、むしろ走りやすい作業道でアクセル緩めて休憩してしまう有様。レースとはほど遠い状態。そんな調子でなんとか中間チェック。すでに20分ほどの遅着。いくら何でもゆっくり走りすぎ。

後半は最初にやっかいな木の根がでているエリアを除けば、かなり楽なシチュエーションが続いた。すり鉢坂もコンディションに恵まれて全く問題なし。クロステストは、大嫌いなグラベルのグルグル。はなっから攻める気もなく、流して終了。そしてモトクロスコースに戻って何とか一周が終了。後半はオンタイムでパドックへ。ここで一息ついて、時計をみながら2周目のタイムチェック。
もう少しペースを上げないと、と思いつつ再び約26kmのコースに向かう。

小さくつまずきながらも、なんとか進む。大きなミスはない。そしてエンデューロテスト。ヌチャヌチャの区間で少し弱気になってしまう。徐々に自分の中でコースの難しい部分がボディブローのように効いてくるのが感じられる。無駄に足を出して転んだり、アクセル開けるところで一息ついてしまう。少し自分を見失ってぼんやりした瞬間、谷に出来たワダチの中で、マシンが横を向いてしまう。慌ててバランスをとろうとしたが時すでに遅し。右側の谷にマシンを落としてしまう。いわゆるプチ崖落ち。落ちた高さはたいしたこと無いが、斜面は急だし、足場がない。上はグチャグチャのワダチゾーン。この状態でひとりでバイクを引き上げるのは無理なんじゃないかという気持ちがよぎる。腕力と腰には人一倍自身がない。ここで終わるのか、という思いと、終わるわけにはいかないという気持ちが交錯する一瞬。でも、体は動いていた。

フロントタイヤ、リアタイヤ、と少しずつ引き上げていくとなんとかマシンはあがってくる。さっきは絶望的かと思えたことが、ほんの少しでもやってみると光が見えるような気がした。ブーツに泥がまとわりついて動きが重い。でもマシンが崖のエッジを越えるとあとはそのまま引き上げるだけ。気がつくとグチャグチャのワダチの上にマシンは横たわっていた。

何とかマシンを立て直し、エンジンをかける。数度のキックでKTMは目を覚ます。キャメルバッグの飲み物を飲む。あたりはキャブからこぼれたガソリンの匂いが充満している。息が切れて、うわずった気持ちのまま、まだ行くぞ、と言い聞かせて何とかエンデューロテストを出る。
結局この週も中間チェックで遅着。
後半は、キャンセルになった区間もあり、かなり余裕を持ってオンタイムでパッドクに戻る。

オンタイムレースは遅着がつくと、そこから設定タイムをずらして計算しなくてはいけない。ただでさえ計算が苦手なのにハードなコースを走りながら60進法は混乱する。冷静に考えればなんてことない計算を頭の中でしながら3周目。すでにペナルティタイムの60分のうち40分ほどは使っている。ここはきっちり走らないと完走も夢に消える状況。焦る。

しかし、山エリアでやたらとエンスト、転倒。クラッチが徐々にスポンジーになっていく。レバーの握りしろがほとんどない。全く走れないというわけでもないが、むやみにエンストするし、ふとアクセル緩めた瞬間にプスッとエンスト。おかげで、填りはしないのに、難しそうなところをようやく抜けた、と思った瞬間に転ぶ。こういう転び方が気持ちにもペースにもどんどん良くないスパイラルを作っていく。もう完全にクラッチをやってしまったと思っていた。この状況でクラッチの修理など出来るはずもない。立ち止まっても出来ることなど無いと、もう何も考えずにクラッチが終わるまで進もうと、がむしゃらになる。疲労で足が攣りまくる。しかし、エンストが怖くて無駄に足を出して、さらに疲労を大きくし、攣った足でバランス取れずにどうしようもなく転びまくる。さっきは行けたはずのところで、パタパタと転ぶ。それも必ず谷側に。それでもさっきはあそこから引き上げたんだからと、無理な姿勢からでも引き起こす。今度は腕も攣る。しまいには胸も背中も攣る。諦めないで進むだけだと言い聞かせるが、しかし冷静さは全くなかった。

やはり中間チェックを遅着で通過、残りのペナルティタイムはほとんどなくなる。
後半部分をきっちり走らなくてはいけないのにマシンは不調。そんななか、舗装区間に降りる細い尾根道の下りでエンスト。マシンはスローモーションで谷に倒れる。今度は完全に崖から落ちた。マシンは5mほどの崖の中腹に、私はほとんど下まで転がり落ちる。しかし、この崖は舗装路に面しているので、引き上げる必要はない。斜面に生えた草木もそれほど多くはないので、何とかよじ登ってマシンを下まで引きずり下ろす。急斜面が幸いして、バイクはズリズリ落ちてくる。不思議とマシンも自分もケガしていない。なんとなくホッとするものの、クラッチレバーがヘンな角度になっている。ここでようやくさっきまでのクラッチ不調はクラッチ本体じゃなく、ホルダーの問題だったことに気付く。止まりたくないという、ただがむしゃらだったといえば聞こえが良いが、全く冷静さを欠いて、長い区間を無駄に走って、自分のダメージを大きくしていたことに、ようやく気がつく。

そこから先はしばらく舗装路が続く。そのあとはすり鉢に向かうルートだ。ひとまずここはエンジンをかけて舗装路の終わりまで走ることにする。走りながら、修理の算段をする。クラッチホルダーのボルトが完全に落ちて、なんとかハンドルに留まっているのは、ハンドルとホースに巻いてあった腕時計のおかげだった。

舗装路の終わり、ここから下ってすり鉢に向かうというところでマシンを止めて、ウェストバッグから工具とタイラップを取り出す。ボルトの穴にタイラップを通して締め付けようと考えた。しかし、タイラップが入らない。よく見るとホルダーの受け側が袋になっている。失敗。他にタイラップで締められそうなひっかかりもない事が判明。
すり鉢坂は問題なくても、そこに至る深いワダチのルートは、さすがにクラッチ不調のままではまともに走れない。このまま走り出しても無駄に転んでタイムオーバーは確実。などと考えている間にも時間は過ぎてゆく。解決しなくては、と焦る気持ちのまま、今度はマシンから外せそうなボルトを探す。クラッチホルダーのボルトは、KTMならごく普通のボルトだ。しかし、外してみた方のボルトが特殊形状だったり、ピッチが違っていたりでなかなか合わない。それに、ドロドロのマシンから外せそうなボルトを探すのも一苦労だ。何度か試行錯誤の末、サイドカバーのボルトがぴったり合った。それはもう、完璧なほど。これで走れる。

急げば間に合うかもしれない、という気持ちと、これだけドタバタしたらもう無理だという気持ちが交互に現れる。結局、半ば諦めつつ、無理に飛ばしても、元々スピードなんて無いんだから確実にいこう、それが自分のスタイルだし、他に無いじゃないか、そんなことをつぶやきながら、すり鉢を越え、クロステストも攻めるでもなく淡々とやり過ごし、プレフィニッシュへ。時計を見る限り、ここでも遅着は間違いない。正確な時間を確認するまでもなくマシンをタイムチェックに突っ込む。そしてカードに記載された時間を見もしないで、15分のワーキングタイムへ。心の中ではすでにタイムオーバーは確実だと思っていた。

パドックではすでにオンタイムで周回している仲間達が待っていた。姫丸さんがカードをみながら、タイムコントロールしてくれる。島ちゃんが給油をサポート。その間私は、あちこち壊したマシンの調整。外したサイドカバーのボルトを締め直し、ひん曲がったハンドガードを叩き、クラッチホルダーのボルトも新たに締め直す。最後に外れかかったヘッドライトカウルを修正。予定していたエアクリーナーの交換やチェーンオイルの補給も出来ず、そのまま最終ゴール。

パルクフェルメへマシンを押していく間は、やはりいろいろな気持ちが交錯する。
たった3周の間にやってしまった愚かな失敗の数々よりも、結局こうしてタイムオーバーという結末を迎え、すでに完走という目標が消えてしまったことに、意気消沈する。体はこれほどまでと思うほどに疲れ切っている。動かす度に、体のどこかが攣りそうになる。
それでも、パルクフェルメにマシンを入れることが出来たのだから、明日も走ることは出来るのだ。しかし、完走という目標を失ってしまった今、そう考えたところで、気分はいっこうに晴れやかにはならない。
ましてや、天気は予報を越えて下り坂。すでに空には暗い雲が漂っていた。
| victor | KTM 200EXC | 23:13 | comments(0) | - |
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鈴木 翁二
オートバイの好きな人が読んでも、全然おもしろくないかもしれません。ガロって何?といわれると、もはや説明もできません。わかるひとにはわかる、というのでもないです。鈴木翁二、読んでみて下さい。
  

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